ある日、有名なシェフで料理本の著者、サラ・フィオローニさんがこの農場に私を招待してくれました。彼女の82歳のお父上、アミコさんにお会いし、素朴な戸外のキッチンのグリルで彼と一緒に有名なフィレンツェ風ステーキを作ろうというのです。アミコさんに会って、私はその武骨な魅力のとりこになってしまいました。イタリア人のこの才能は自然に備わっているもので、どこの国の人もまねできません。それに、彼の豪華なベジタブル・ガーデン、「L’Orto di Amico(アミコ菜園)」の素晴らしいこと。その理由は、ただ彼を見ていればわかります。青々と密生し、中毒しそうな香りで温室を満たしているバジルのそばを通り、王国の中を歩き回るその姿を。200年ぶりの暑い夏だったとか、太陽のせいでトマトがほとんどやられたとか、悔しそうにつぶやくのを聞けば、また、農場で飼育している世界最古の品種のひとつ、雪のように白いキアニーナ牛を優しく撫でるのを見れば、彼がどれほど土地とその土、生産物、動物たちとともに育ってきたのかがわかります。菜園にはフェンネル(ういきょう)、レタス、豆、長く先の尖った葉をもつ黒っぽいトスカーナ・ケールも植えられていて、やがて摘み取られ、トスカーナ風リボリータ・スープになるのを待っています。他にもアミコさんが愛してやまない大量のリーキ。すべてがオーガニックで、農場の素敵なレストランで家族とゲストに供されます。ミシュランガイドの常連になっているこの農場では宿泊も可能。たった一晩だけでもゲストの王国になることはまちがいありません。